毎日夕方になると不安感や焦燥感に襲われ、酒を飲むとそれが治るという日々が続き、やがて不安感は吐き気に変わり、酒を飲むと吐き気が治るという状態にまでなりました。手の震えもひどく、これは「絶対に酒のせいだ!」と思った僕は病院を訪れました。
その結果、アルコール依存症と診断されました。

アルコール依存症を治す治療が始まりました。
断酒です。
断酒は簡単でした。でも難しかったです。何が難しいのかというと、続けることが難しいのです。正確に言うと、続けるのを続けるのが難しいのです。続けることを続ける困難。アルコール依存症の人ならわかってくれるのではないでしょうか?
そんな話です。
入院せずに外来で治療・断酒することに
通常、アルコール依存症の治療は入院して行われるそうです。ですが、僕は入院せずに外来で治療することになりました。
僕は医師ではないのでその理由はわかりません。
僕は自ら「アルコール依存症かもしれない!?」「お酒をやめたい」という意思を持って病院へ行きましたので、自力でアルコール依存症を治療できると判断されたのではないかと思います。
他のアルコール依存症の患者さんは、家族に無理やり病院へ連れてこられて、「俺はアルコール依存症ではない!」とか、「酒を飲まない休肝日を設定している!」とか話すそうです。確かに、そういうアルコール依存症患者さんは入院しないと酒を飲み続け、さらに不健康になってしまうので入院治療が必須でしょう。
さて、アルコール依存症の治療って、どうやってやるのか知ってますか?
いたって原始的なのですが、断酒です。酒を一切飲まないことです。そして、一生飲まないことです。
一生飲まないのには理由があります。一度アルコール依存症になった人が一定期間の断酒に成功しても、「久しぶりに一杯だけ飲もう」と思って飲んだとします。その日は一杯で済むかもしれませんが、その翌日、またその翌日と続いていき、気づけば治療前と同じように多量のお酒を飲む生活に戻ってしまうからです。だから、一生断酒なのです。
1週間の猶予で最後の酒を楽しむ
アルコール依存症と診断されたその日から断酒が始まるのかと思いきや、そうではありませんでした。1週間後の同じ曜日から断酒を始めることになりました。つまり、1週間の猶予が与えられました。
この1週間の過ごし方の説明を受けました。
- 断酒しないでください。
- いつもより摂取するアルコール量を少なくしてください。
突然断酒をすると不安感や焦燥感に襲われますので、突然断酒しないようにしてくださいと言われました。来週から、不安感を抑える薬や睡眠を促す薬を導入することで、お酒を飲まなくても不安感に襲われず睡眠できる環境を作っていくと言うことでした。
摂取するアルコール量を今より少なくするようにも言われました。少なくとも、今より増えることはあってはならないとのことで、僕の場合アルコール度数9%のお酒の本数を減らしたり、9%のものを飲むのをやめるように言われました。
てっきり、診断された今日から治療が始まり、断酒が始まると思っていたのですが、1週間の猶予をもらったときは、ホッとしました。

よかったぁ。まだ酒を飲めるんだ。
医師の言うことをしっかり守り、飲みすぎないながらも毎日酒を飲む1週間を送り、お酒と別れを告げました。
ついに断酒始まる!最初の数日が大変
翌週、ついに断酒が始まりました。
お酒がいかに体に悪いのかを説明する講義ビデオを見て、お酒が肝臓や脳に悪いことを知りました。
不安感を抑える薬と、睡眠を導入する薬を処方されました。
さらに、日々の断酒日記とその書き方を指導されました。毎日、その日の断酒結果や酒を飲みたくなった際にどうやって飲まないようにしたか、逆に酒を飲んでしまった場合はどうして飲んでしまったのかなどを書く日記です。いわゆる認知行動療法の一つだと医師は説明していました。
こうして、断酒が始まりました。
初日は食べまくって乗り切る
初日ですが、病院後にふとこう思いました。

よし!今日から断酒頑張るぞ!
景気付けに、何か食べよう!!
病院の近くにあったなか卯に入り、牛丼とミニうどんのセットを食べました。
さらに、健康のために歩き昼ごはんはリンガーハットでチャンポンとミニチャーハン、餃子を食べました。
その後も歩きつづけ、クタクタになって帰宅した僕はココイチでカツカレーを宅配注文して食べました。
この日1日でかなりのカロリーオーバーでして、逆に不健康なんじゃないかと思うほど食べましたが、たくさん食べたおかげで、もう何も口に入れたくないという気持ちが勝り、酒を飲みたいという欲求は抑えられました。
外食での誘惑に打ち勝った2日目
2日目と3日目には大きな誘惑に遭遇しました。
2日目に、妻と訪れたショッピングモールで時間を潰していると、夕食どきになっていました。外食にしようと言うことになり、ショッピングモール内のレストランを見ていると、しゃぶしゃぶ食べ放題のお店がありました。

しゃぶしゃぶ食べ放題+アルコール飲み放題を楽しみたい!!!
お店の前を何度も何度も行ったり来たりして、妻に「今日が最後だから、しゃぶしゃぶ食べ放題+アルコール飲み放題」にしようと交渉していました。妻はこういう条件を出してきました。

ちゃんと断酒日記に断酒に失敗したことなどを書いて、医師にも報告するならアルコール飲み放題でもいいよ!
う〜ん。そこまでして酒を飲むのはどうだろうか?そこまでして酒を飲みたいのだろうか?医師に「断酒2日目で酒を飲んでしまいました」と伝えたら気まずいないぁ。そんな気持ちが心を支配しました。

お酒を飲むとは何なのか?どういう意味があるのか?お酒とは何か?
そんなことを考えていると、お酒を飲みたい気持ちはなくなりました。そして、外食も中止して、家に帰ってからご飯を食べました。
スーパーのお酒コーナーの誘惑に勝利した3日目
3日目、その日の夕飯を買いにスーパーマーケットへ行きました。
野菜と肉を買い物かごに入れ、無意識に2階のお酒コーナーへ向かっていました。なぜなら、いつもそうやってお酒を購入していましたので。
でも、今は断酒しています。お酒コーナーに行っても、お酒を買ってはいけません。
が、お酒の缶が宝石のように並べられているお酒コーナーを見てしまうと、お酒が無性に飲みたくなります。
今日くらいいいのでは?2日間飲まずに頑張ったよね?
いやいや、今日頑張れば3日連続で断酒成功だぞ!今日飲んでしまったら、断酒スタート0日目に戻ってしまうんだぞ!
じゃあさ、買うだけならいいでしょ?飲むかどうかは買ってから決めればいいよ!買うと飲むは違うことだよ。買うだけ買ってみようよ。
そんなことを考えながら、お酒コーナーの前を行ったり来たりしました。
- そもそもお酒とは何なのか?
- なぜこんなに飲みたくてしょうがないのか?
- 飲んだら楽しくなるのか?
- いつも記憶がなくなって翌朝気落ち悪く目覚めるだけじゃないか?
- ほぼ水にアルコールが入っているだけの液体でしょ?
- 僕にとってお酒とは何?
お酒って一体何なのでしょう。こうした哲学問答のような疑問を抱え始めた僕は、お酒を飲むことに意味を感じなくなり、お酒コーナーを後にしました。
スーパーのお酒コーナーに勝利した瞬間でした。
断酒なんて余裕だぜ!飲みたい気持ちがなくなる
上述した2つの誘惑に打ち勝ったことで自信がついたのか、理由はわかりませんがお酒が飲みたいという誘惑は無くなりました。今までお酒を飲むということが頭の80%を占めていましたが、3%くらいまでに落ちました。
お酒を飲まなくなっていいことが増えました。
- 快眠できるようになり、朝気持ちよく目覚めました。
- 内臓脂肪が減り始めたので、体重も減り始めました。
- 毎晩酔っ払う僕に対してストレスを感じていた妻が元気になりました。
- 意欲が湧くようになり、行動的になりました。

お酒やめるのって、簡単だなぁ。
しかも、良いことづくめ!
一生断酒なんて楽勝でしょ!!
処方されていた不安感を抑える薬や睡眠導入剤の効果も大きかったと思います。不安感に襲われないのでお酒を飲まなくてもいいわけですし、お酒飲もうかなとふと思ったときは睡眠導入剤を飲んで寝ることができました。その結果、僕は20時には就寝し、朝は4時に起きるような超朝型生活をするようになりました。
全てが順調。もう怖いものなし。このまま一生断酒成功は間違いない!と思っていました。
悲しい出来事に耐えられず飲んでしまった
断酒連続成功記録が2ヶ月を到達し、順調に断酒していた〇月1日のことでした。夕食の食材を買おうと外出したところ、郵便ポストにとある大学から郵便が届いていました。
東北地方の国立大学からの郵便で、約1ヶ月前に最終面接まで行った大学でした。模擬受講も好評でしたし、面接も無難にこなせましたので、手応えがありました。
面接後に人事の方が「結果は〇月始めに連絡します」と言っていましたので、これはあの最終面接の結果が入っている郵便ということになります。
と、同時に、嫌なオーラを感じました。
その郵便は簡易書留ではない普通郵便でした。最終面接の結果、つまり採用結果という重要な連絡を普通郵便で送ってくるとは思えません。それに、本当に僕を採用したいのであれば、出来るだけ早く僕に連絡を試みているはずです。例えば電話とか、メールとか。
そうなのです。大学から送られてくるこの手の薄っぺらい郵便は、開けずとも結果がわかる不採用通知なのです。
心臓がドキドキしているのを感じながら封筒を手に取ると、その手はアルコール依存症患者の手のようにブルブルと震えていました。
心の中では不採用通知だとわかっていても、もしかしたら、もしかしたら、と願うように封筒を開けました。
「残念ながら」という文言が一番に目に入ってきて、あぁやっぱり不採用だったのかと思うと同時に、グルグルと周りが回っている感覚になりました。頭が回っていると言った方がいいのかな?
強烈な吐き気も感じました。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
身体中の力がなくなり、天井から見えない糸で吊り下げられてるんじゃないかというくらいに身体中がダルく力が入りません。呼吸もハーハーと荒くなりました。
その症状が収まるまで少し時間を置いて、スーパーマーケットへトボトボと歩き出しました。
もうやってられない。もうやってられない。もうやってられない。もうやってられない。
スーパーへの道中妻に電話しました。
「ごめん、今日はお酒を飲む」
希望だった大学かつ手応えのあった大学から不採用を受け取ったことも伝えました。妻は、僕の声のトーンや雰囲気からお酒を飲むことを拒否しませんでした。あまりの落ち込みように拒否できなかったのだと思います。
この日はお酒をたくさん飲んで、泣きながら寝ました。
一度だけのつもりが、以前の飲酒生活が復活
お酒を飲んで泣きながら寝た僕ですが、その日だけで終わらせることはできませんでした。
翌日も同様に飲んでしまいました。その翌日も同様にです。
さらに言うと、昼から飲んでいました。昼飲んで、夜飲んで、以前より飲んでいました。爆発的飲酒です。
しかも、就活失敗や迫ってくる失業のストレスから逃げるために酒を飲んでいるわけです。ストレスから逃げる手段としてお酒を利用している点は以前と同じです。それを変えようと思って断酒を始めたのに。
今でも思うのですが、このとき妻はすごくストレスを感じていたと思います。妻は、お酒を飲んでは自己嫌悪に落ちてないく夫と一緒にいるのですから、妻も同様に自己嫌悪に陥っていたそうです。

自分が至らないから、夫がこんなに苦しんでいるのではない?
病院にも行けなくなりました。医師に「先週は1週間ずっと酒を飲んでいました」と言う勇気がなかったからです。
アルコール依存症患者の多くが断酒を失敗し、断酒とお酒再開を繰り返して、早死にするそうです。そして、僕もまさにその断酒とお酒再開のサイクルに飲み込まれようとしています。
つづく!?